ヘンナ(ḥenna)は学名Lawsonia
inermis L.、和名「シコウカ」「ツマクレナイ」、モロッコ各地でも栽培されている植物で、乾燥葉の粉末が市販されています。水や紅茶などで溶いて、染料やヘアトリートメント剤として使います。
手足を染めるヘンナには3種類あります。ヘンナを注射器に入れて押し出し、細かな模様をつけるやり方を「模様ヘンナ(l-ḥenna
be-ẓ-ẓwaq)」といい、これを専門にする女性をヘンナーヤ(ḥennāya)と呼びます。型紙の上にヘンナをのせて模様をつける場合は「型ヘンナ(l-ḥenna
b-ṛ-ṛeshm)」、手のひら・足の裏全体に塗りつけるのは「浸しヘンナ(l-ḥenna
be-l-meghṭeṣ)」といいます。
パーティー用の模様ヘンナ(l-ḥenna
de-l-ḥefla)を両手・両足に施すには、最低4時間はかかります。
伝統的な刺繍(ṭ-ṭeṛz
l-beldi)ができる女性(ṭeṛṛāza)なら誰でも模様ヘンナができますが、ヘンナーヤが全員、刺繍ができるわけではありません。
ヘンナーヤのなかには、ジン(妖霊)がついていて、勉強しないで突然、ヘンナができるようになった女性もいると言います。注射器が使われるようになったのは20年程前からで、それまでは羊か牛の角から作られた串状の棒メルワド(コホルをつけるのと同じ)が使われていました。女性が朝、目覚めたら枕の下にメルワドがあったり、外出しようとしたら戸口にメルワドがあったり、外を歩いていたらメルワドが落ちていたりと、メルワドがあるはずのないところでメルワドを見つけた途端、複雑な模様が描けるようになったのだそうです。これを「彼女の主人(つまりジン)が彼女にメルワドを与えた(mwālī-hā
‘ṭaw-ha
l-merwed)」と言います。
ヘンナは喜びの象徴で、女性は宗教的祝祭日や慶事(farḥ)に手足にヘンナをします。そうしたハレの日以外にも気分転換にヘンナをすることがありますが、弔事(ḥozn)にはヘンナをしません。喪の期間は、家族が死んだ場合は40日、夫が死んだ場合は4ヵ月と10日で、女性は喪中、ヘンナもスワーク(歯ブラシとして使う木の棒)も化粧もしてはならないのです。
ヘンナをする宗教的な日は、断食明けの祭、犠牲祭、預言者生誕祭、そしてシャアバーン月(ヒジュラ暦8月)の15日です。また、既婚女性はラマダーン月(ヒジュラ暦9月)が始まる数日前に髪にヘンナトリートメントをします。これは身を清めるためです。
ラマダーン月26日の夜、つまりライラ
・アルカドルの前夜、13、14歳以下の女の子は手にヘンナをして、翌日は全身新しい物(服、靴、サック)を身につけます。この日に断食を試みる子もいます。婚約式(l-ḥefla
d-le-khṭūba
/ l-fātiḥa)、結婚証明書作成式(l-ḥefla
dyāl ḍṛīb
ṣ-ṣḍāq)、結婚披露宴(l-‘ars)にはヘンナが欠かせません。
妊娠7ヶ月(日本の数え方では妊娠8ヶ月)、妊婦は手足にヘンナをして、身内だけで、あるいは女性客を招いて、「7ヶ月のヘンナ祝(‘shīya
de l-ḥenna
dyāl seb‘ shhūṛ)」を行います。
子どもが生まれると、助産婦はへその緒を切り、乳鉢ですりつぶして細かい粉にしたヘンナをへその周囲にはたきます。
母親は6日目にヘンナをして、7日目に命名祝「御七夜(sbū‘)」を行います。
模様ヘンナをつけ終えて |